東京アカデミー立川教室
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こんにちは。公務員試験の予備校=東京アカデミー立川校の福島です。
今日は、今年実施された国家公務員一般職の専門「憲法」No.11を見てみましょう。
No.11 憲法第13条に関する次の記述のうち、判例に照らし、妥当なのはどれか。
1.学籍番号及び氏名は、大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではなく、自己が欲しない他者にはみだりにこれらの個人情報を開示されないことへの期待は、尊重に値するものではあるものの、法的に保障されるとまではいえないから、学籍番号及び氏名はプライバシーに係る情報として法的保護の対象とはならない。
2.人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有するところ、肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、当該人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。
3.聞きたくない音を聞かない自由は、人格的利益として現代社会において重要なものであり、憲法第13条により保護され、かつ、精神的自由権の一つとして憲法上優越的地位を有するものであるから、商業宣伝放送を行うという経済的自由権によって当該自由が制約されている場合は、厳格な基準によってその合憲性を判断しなければならない。
4.患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合であっても、このような意思決定をする権利は、患者自身の生命に危険をもたらすおそれがある以上、人格権の一内容として尊重されるということはできない。
5.人格権の内容を成す権利は人間として生存する以上当然に認められるべき本質的なものであって、これを権利として構成するのに何らの妨げはなく、さらには、環境汚染が法によってその抑止、軽減を図るべき害悪であることは、公害対策基本法等の実定法上も承認されていると解されることから、良い環境を享受しうる権利しての環境権は、憲法第13条によって保障されていると解すべきである。
正答 2
1;誤り。最判平15.9.12民集57巻8号973頁(江沢民壮大講演会訴訟)は、「学籍番号、氏名、住所及び電話番号は、D大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。また、本件講演会に参加を申し込んだ学生であることも同断である。しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、(本件個人情報)は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである」と判示している。準拠テキスト憲法39頁。
2;正しい(最判平24.2.2民集66巻2号89頁=ピンク・レディー事件)。同判決は、「肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。他方、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めるなどして、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあるのであって、その使用を正当な表現行為等として受忍すべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。」と判示した。準拠テキスト憲法36頁。
3;誤り。本肢は、大阪市営地下鉄商業宣伝放送差止等請求事件(「囚われの聴衆」事件)における原告の上告理由であるが、最高裁は、列車内の本件商業宣伝放送は違法とはいえないと簡単に述べて請求を退けた(最判昭63.12.20判時1302号94頁)。
なお、伊藤正己裁判官の補足意見が、「個人が他者から自己の欲しない刺戟によって心の静穏を乱されない利益を有しており、これを広い意味でのプライバシーと呼ぶことができ」、この利益は「人格的利益として現代社会において重要なものであり、これを包括的な人権としての幸福追求権(13条)に含まれると解することもできないものではない」が、これが精神的自由権の一つとして憲法上優越的地位を有するものとすることは適当ではないと述べ、結局、本件状況下では受任の範囲を超えたプライバシーの侵害であるということはできないと結論しているのが注目される(佐藤幸治「日本国憲法論」192頁)。
4;誤り。最判平12.2.29民集54巻2号582頁は、「患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない」と判示している。準拠テキスト憲法43頁。
5;誤り。環境権という名の権利を真正面から承認した最高裁判所の判例はない(芦部信喜著(高橋和之補訂)「憲法(第7版)」282頁)。
なお、人格権に基づく妨害の排除・予防差止請求を認めた大阪空港公害訴訟の二審判決(大阪高判昭50.11.27判時797号36頁)を参照。上告審(最高裁)は、差止請求を却下している(最判昭56.12.16民集35巻10号1369頁)。芦部著(高橋補訂)「憲法(第7版)」282~283頁、佐藤幸186~187頁。準拠テキスト憲法41~42頁。
上記で引用した佐藤幸治先生の「日本国憲法論」は、最近第2版が出版されました。解説を書いたのは試験後すぐであったため、初版のページ数になっています。
囚われの聴衆事件は、佐藤幸治先生の本でわたくしも学生時代に知りました(成文堂の日本国憲法論ではなくて、青林書院の「憲法」です。マニアックw)。が、通常の憲法の本ではなかなか載っていないですネ。
ピンクレディー事件は、東京アカデミーのテキスト「準拠テキスト憲法」でも「Hi, Check!」のコーナーに載っています(36頁)。ということで、国家公務員一般職に強い東京アカデミー!の講座は、コチラをご覧ください。