東京アカデミー立川教室
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こんにちは。公務員試験の予備校=東京アカデミー立川校の福島です。
昨日に続きまして、今日は、2021年5月2日実施の東京都Ⅰ類の専門・憲法のNo.4について、解説をします。
こちらの解説は、多分にわたくしの個人的見解が入っておりますので、その辺を含みおき、お読みください。
No.4 日本国憲法に規定する議院の国政調査権に関する記述として、判例、通説に照らして、妥当なのはどれか。
1.国政調査権の性質について、国権の最高機関性に基づく国権統括のための独立の権能であるとする説に対し、最高裁判所は、議院に与えられた権能を実効的に行使するために認められた補助的な権能であるとした。
2.両議院は、国政調査に関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができ、調査手段として、強制力を有する住居侵入、捜索及び押収も認められている。
3.裁判所と異なる目的であっても、裁判所に係属中の事件について並行して調査することは、司法権の独立を侵すため許されず、二重煙突の代金請求を巡る公文書変造事件の判決において、調査は裁判の公平を害するとされた。
4.国政調査権は、国民により選挙された全国民の代表で組織される両議院に特に認められた権能であるため、特別委員会又は常任委員会に調査を委任することはできない。
5.日商岩井事件の判決において、検察権との並行調査は、検察権が行政作用に属するため原則として許容されるが、起訴、不起訴について検察権の行使に政治的圧力を加えることが目的と考えられる調査に限り自制が要請されるとした。
正答 肢1
肢1;国政調査権の性質については、肢の通り、独立権能説(阪本1347頁)と補助的権能説があり、後者が通説である(清宮1287頁、芦部329頁、佐藤幸509頁、伊藤496頁、佐藤功510頁、樋口ほか注解Ⅲ156頁、高見ほかⅡ144頁。なお、木下和朗「国政調査権の意義と限界」(「新・憲法の争点」202-203頁)参照)。
浦和充子事件を契機に国政調査権の性質について論議された。参議院の法務委員会が浦和地裁の判決(1948年7月2日。懲役3年執行猶予3年)を「量刑が不当(軽すぎる)」という決議を行ったこと(1949年3月30日)に対して、最高裁判所が「司法権の独立を侵害し、まさに憲法上国会に許された国政に関する調査の範囲を逸脱する」ものとだとして、強く抗議した(宮沢コメ472-473頁、芦部329-330頁、伊藤500頁、小嶋414-415頁、佐藤功511-512頁、佐藤幸508頁、高見・野中ほかⅡ144頁・243頁、戸松405頁、松本・渡辺ほかⅡ268頁・333頁、安西ほか・読本290-291頁参照。高見「芦部憲法学を読む」160頁以下が詳しい)。
参議院法務委員会は独立権能説を主張したのに対し、最高裁判所は補助的権能説に拠りながら、法務委員会による調査権の濫用を訴えた(高見ほかⅡ145頁、安西ほか・読本290頁)。
すなわち最高裁判所は「憲法第62条に定める議院の国政に関する調査権は、国会又は各議院が憲法上与えられている立法権、予算審議権等の適法な権限を行使するにあたりその必要な資料を集取するための補充的権限に他ならない」(「参議院法務委員会の『検察及び裁判の運営等に関する調査』についての最高裁判所の参議院に対する申入書(1949年5月20日付)〔浦和事件〕。ユーブンク憲法(第2版)177頁参照)。したがって、肢1の内容自体は正しい。
もっとも問題文には「判例、通説に照らして、妥当なのはどれか。」とあり、国政調査権の性質について判示した最高裁判所の判決例はない。上述の通り、最高裁判所は補助的権能説に拠っているが、浦和事件を契機にした参議院法務委員会への抗議の申入書にとどまるので、出題の仕方に疑問が残るも、他の肢が誤りなので、出題者は肢1を正解に問題を作成したと考えられる。
肢2;誤り。憲法62条は「両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる」としており、前段は正しい。強制力を伴う方法を憲法の定める以上に許されるかが問題となるが、国政調査は刑事司法活動ではないから、いかに調査のために有効であっても、憲法の認める強制手段以外は法律をもって認めることができないと解されている(清宮1・286頁)。したがって、調査のためであっても、住居侵入、捜索、押収、逮捕のごとき刑事訴訟法上の強制手段は許されない(宮沢コメ477-478頁、伊藤502頁、芦部332頁、樋口ほか注解Ⅲ161頁)。判例もそのように解している(札幌高判昭30.8.23高裁刑集8巻6号845頁)。したがって、後段は誤り。
肢3;誤り。裁判所で審理中の事件の事実について、議院が裁判所と異なる目的(立法目的・行政監督の目的など)から、裁判と並行して調査することは、司法権の独立を侵すものではないとするのが通説(芦部330頁、伊藤499頁、樋口ほか注解Ⅲ158頁、高見ほかⅡ148頁、戸波389-390頁)である。したがって前段は誤り。
特別調達庁の注文で製造したいわゆる二重煙突の代金請求をめぐる公文書変造事件について、参議院決算委員会は、調査を行うこととなり、現職の法務総裁らを証人喚問した。この事件は後に刑事事件として裁判に係属したが、その後も調査が続けられ、担当検事らの証言内容も公表された。これは裁判官に予断を与えるおそれがあるという主張に対し、裁判所は、委員会議事録等によって証言内容が公表されたからといって、直ちに裁判官に予断を抱かせる性質のものではなく、この調査が必ずしも裁判の公平を害するとはいえないとした(二重煙突事件=東京地判昭31.7.23判時86号3頁。芦部331頁、伊藤499-500頁、高見ほかⅡ148頁)。したがって、後段も誤り。
肢4;誤り。国政調査権は各議院に与えられているが、議院は、必ずしも本会議によってその権能を行使しなければならないわけではなく(樋口ほか注解Ⅲ153頁)、性質上、通常は委員会に授権して調査を行わせることになる(清宮1・286頁。常任委員会はその所管事項について、議長に承認を求めて調査を行い(衆議院規則94条、参議院規則74条の3)、特別委員会は付託された特定の案件の審査に必要な調査を行う。またときに議院の決議によって、特定の事項を調査するために調査特別委員会が設置されることがある(宮沢コメ470-471頁、伊藤500-501頁、樋口ほか注解Ⅲ153頁、佐藤幸509頁、高見ほかⅡ146頁)。したがって、本肢は誤り。
肢5;誤り。東京地判昭55.7.24判時982号3頁(日商岩井事件。百選Ⅱ171事件、戸松秀典・初宿正典編著「憲法判例(第7版)」(有斐閣)509-510頁)は、「国政調査権の行使が、三権分立の見地から司法権独立の原則を侵害するおそれがあるものとして特別の配慮を要請されている裁判所の審理との並行調査の場合とは異り、行政作用に属する検察権の行使との並行調査は、原則的に許容されているものと解するのが一般であり、例外的に国政調査権行使の自制が要請されているのは、それがひいては司法権の独立ないし刑事司法の公正に触れる危険性があると認められる場合(たとえば、所論引用の如く、(イ)起訴、不起訴についての検察権の行使に政治的圧力を加えることが目的と考えられるような調査、(ロ)起訴事件に直接関連ある捜査及び公訴追行の内容を対象とする調査、(ハ)捜査の続行に重大な支障を来たすような方法をもつて行われる調査等がこれに該ると説く見解が有力である。)に限定される」としている。肢5は、この有力説の(イ)に限り自制が要請されるとしているので、誤り。
なお、司法権の独立ないし刑事司法の公正に触れる危険性があると認められる場合として、(イ)(ロ)(ハ)を挙げたのは芦部信喜「議院の国政調査権」(「憲法と議会政」所収156頁)である。芦部331頁、戸波390頁。
ということで、肢1の文章は、「最高裁判所は」としていて、民法の選択肢にある「最高裁判所の判例では」(例えば、今年の問題の民法No.13のCやD)とは異なる表現です。なので、多分、出題者は、この「最高裁判所は」というのは、浦和事件の最高裁判所の申入書を指して表現しているのではないかと思われます。
憲法をしっかり学んだ方だと、問題文の「判例、通説に照らして」とあるので、「最高裁判所の判例はないから肢1は誤り」とした受験生がいた可能性は高いと思います。
肢5は、「日商岩井事件の判決」は、判決文の抜き出しから作成しており、解説に書きました通り、ロ・ハが抜けていますので、明らかな(客観的に)誤りとなります。判例百選に入っている判決ではありますが、憲法の基本書でも日商岩井事件について詳しく書いている基本書が少ないのも事実で、公務員試験受験生には少し可哀想かな、と思いました。でも、大半の受験生は細かいところを気にせず、補助的権能説だよ!肢1が正解!とした方が多いようです。
最高裁判所の申入書を使うのであれば、「判例、通説に照らして」という文言を削除して出題するべきではなかったかな、個人的に思います。