東京アカデミー立川教室
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こんにちは。公務員試験の予備校=東京アカデミー立川校の福島です。
一昨日、昨日に続きまして、今日は、2021年5月2日実施の東京都Ⅰ類の専門・憲法のNo.5について、解説をします。
No.5 日本国憲法に規定する財政に関する記述として、判例、通説に照らして、妥当なのはどれか。
1.国による債務の負担には国会の議決に基づくことを必要とするが、この債務の負担には、金銭債務、債務の支払いの保障は含まれるが、損失補償の承認は含まれない。
2.内閣は、予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を支出することができるが、その支出について事後に国会の承認を得られない場合には、支出の効果に影響を及ぼし、無効となる。
3.国の収入支出の決算は、全て毎年内閣がこれを検査し、また、内閣総理大臣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
4.最高裁判所の判例では、物品税課税無効確認並びに納税金返還請求事件において、パチンコ球遊器が物品税法上の遊戯具に含まれるとするのは困難であり、また、通達課税に関しては、通達の内容が方の正しい解釈に合致しないため、本件課税処分は法の根拠に基づく処分と解することはできないとした。
5.最高裁判所の判例では、津地鎮祭事件において、津市体育館の起工式の挙式費用の支出は、当該起工式の目的、効果及び支出金の性質、額等から考えると、特定の宗教組織又は宗教団体に対する財政援助的な支出とはいえないから、憲法に違反するものではないとした。
正答 5
1.誤り。憲法85条は、「国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基くことを必要とする。」としており、国による債務の負担には国会の議決に基づくことが必要なので、前段は正しい。
「債務を負担する」とは、国が財政上の需要を充足するのに必要な経費を調達するために債務を負うことをいう。国が債務を負担することは、将来その弁済のために国費を支出することになり、ひいては国民の負担となるために国会の議決を要するとした(中村ほかⅡ340頁)。債務とは金銭債務を意味するが、直接に金銭を支払う義務でなくても、債務の支払いの保証や損失補償の承認なども、結局は国費の支出を伴うものであるから、債務の負担に含まれる。したがって、本肢は誤り。
2.誤り。憲法87条1項は「予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。」と規定しており、前段は正しい。
87条2項は、「すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。」と規定している。したがって、国会の承諾が得られたときは、内閣の責任が解除されるが、承諾が得られないときは、内閣の政治上の責任問題が生ずるが、不承諾はすでになされた支出の法上の効果には、なんらの影響も与えないと解されている(中村ほかⅡ355頁、宍戸ほか・読本351頁、工藤ほかⅡ415頁)。したがって、本肢は誤り。
3.誤り。憲法90条1項は、「国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。」としている。検査をするのは会計検査院であり内閣ではないので、本肢は誤り。
4.誤り。昭和26年3月東京国税局長の通達により、それまで非課税物品とされていたパチンコ球遊器に物品税が課税されたが、これに対し、「通達課税」は違憲無効であるとして争われた事件において最高裁判所は、「社会観念上普通に遊戯具とされているパチンコ球遊器が物品税法上の『遊戯具』のうちに含まれないと解することは困難であ」るとしており、前段は誤り。また、法律上は課税できる物品であるにかかわらず、実際上は非課税として取扱われてきた物品を、通達によって新たに課税物件として取扱うことも、「通達の内容が法の正しい解釈に合致するもの」であれば、違憲でない。「本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであっても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基づく処分と解するに妨げがな」いと判示しており(最判昭33.3.28民集12卷4号624頁=百選ⅡA16事件)、後段も誤り。
5.正しい(津地鎮祭事件=最大判昭52.7.13民集31巻4号533頁=百選Ⅰ42事件)。
三重県津市が体育館を建設するにあたり、神職の司式のもとに神社神道固有の儀式に則って起工式(地鎮祭)を挙行し、それに公金を支出したことが、憲法20条・89条に違反するのではないかが争われた。最高裁は、「①政教分離の原則は宗教的中立性を要求するが、国家と宗教との完全な分離は不可能に近いし、社会生活の各方面に事態を生ずる。②故に、政教分離原則は「国家が宗教とのかかわり合いをもつことを全く許さないとするものではなく、宗教とのかかわり合いをもたらす行為の目的及び効果にかんがみ、そのかかわり合いが、右の〔わが国の社会的・文化的〕諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするもの」。③以上の政教分離原則の意義に照らして考えると、20条3項の「宗教的活動」とは、国およびその機関の活動で宗教とのかかわり合いをもつ行為のうち、「そのかかわり合いが右にいう相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであって、当該行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきである。」④ある行為が右に言う宗教的活動に当たるか否かを検討するに当たっては、行為の主宰者が宗教家か、順序作法が宗教の定める方式に則ったものかなど、外形的側面のみにとらわれることなく、「当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断しなければならない。」⑤このような基準によって本件地鎮祭を考えると、「宗教とかかわり合いをもつものであることを否定しえないが、その目的は建築着工に際し土地の平安堅固、工事の無事安全を願い、社会の一般的慣習という専ら世俗的なものと認められ、その効果は神道を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められないのであるから、憲法20条3項により禁止される宗教的活動にはあたらないと解するのが、相当である」。⑥「本件起工式は、なんら憲法20条3項に反するものではなく、また、宗教団体に特権を与えるものともいえないから、同条1項後段にも違反しない」。「更に、右起工式の挙式費用の支出も、前述のようなことを考えると、特定の宗教組織又は宗教団体に対する財政援助的な支出とはいえないから、憲法89条に違反するものではなく、地方自治法2条15項(現16項)、138条の2にも違反するものではない」。
有名な津地鎮祭事件最高裁判決からなので、正答率も高い問題でした。