東京アカデミー東京校
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こんにちは。教員採用試験の予備校=東京アカデミーの福田です。
今日は、私が最近読んだ書籍『AIに負けない子どもを育てる』(新井紀子・著)をご紹介します。なかなかの長文ですよぉ。
この本は1年ほど前にベストセラーになった『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』の続編ですが、私は前著を(興味はあったものの)読んでいません。
著者の新井氏(専門は数理論理学)は2011年から国立情報学研究所(NII)で、AI「東ロボくん」が東京大学に合格できるかどうかというプロジェクトを率いた方です。2016年「東ロボくん」は模試でMARCHおよび関関同立の合格可能性80%以上というところまで成績を伸ばしましたが、東大合格レベルには届かぬまま、同年にプロジェクトは終了しました(このニュース、覚えています)。
プロジェクトで明らかになったのは、問題の意味を正しく理解して解くのではなく、膨大なデータに基づいて高速で演算して正解を類推する現在および近未来のAI技術の限界=読解力不足だったようです。そのこともあってか、新井氏はAIが発達して人間の知性を超えるというシンギュラリティ(2045年に実現するという説が一時期話題になりました)にも否定的です。
前著によると(このブログのために少し立ち読みしてきました^-^; 。すいません)、新井氏は「東ロボくん」プロジェクトと並行して、日本数学会による「大学生数学基本調査」にも深く関与し、その調査と分析を通じて、多くの大学生は数学が得意か不得意かという以前に、そもそも問題文を正しく読み取れていないのではないかという疑問を持たれたようです。
そこで、「東ロボくん」プロジェクトの蓄積を生かして、教科書・新聞・辞書などを出典に事実のみが書かれた短文(問題のタイプによっては図表・グラフも含む)が正しく読めているか、文字通り理解できているか、純粋に基礎的・汎用的な読解力のみを測るテスト=リーディングスキルテスト(RST)を開発します。このテストでは、いわゆる“行間を読む”ことも、登場人物の心情や筆者の主張を読み取ることも必要ありません。
最初に開発されたRSTを中学生に解いてもらったところ、正答率が予想以上に低く、中学生の多くがおそらく教科書をちゃんと読めていない、理解できていないという結果が出たそうです。だからこそ、読解力のない「東ロボくん」に模試の成績で負ける受験生が多数存在するわけです(私も危ない)。
本書の冒頭部でも紹介されていますが、信じがたいことに、以下の問題の中学生の正答率は57%しかなかったそうです。
【問題A】
・幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。
・1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。
以上の2文は同じ意味でしょうか。
正解はもちろん「異なる」です。その正解率が60%以下とは驚きですね。
では、次のような問題はどうでしょうか?本書に掲載されたSRT体験版(簡易版)からの抜粋です。正解はこのブログ記事の終盤に掲載します。
【問題B】
以下の文を読みなさい。
アミラーゼという酵素はグルコースがつながってできたデンプンを分解するが、同じグルコースからできていても、形が違うセルロースは分解できない。
この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちから1つ選びなさい。
グルコースからできているのは、デンプンと( )である。
① セルロース ② アミラーゼ ③ 酵素 ④ 形
【問題C】
以下の文を読みなさい。
日本の面積は、約3800万haです。1990年から2010年の間、毎年世界全体で失われた森林の面積は、日本の面積の約18%にあたります。
上記の文に書かれていることが正しいとき、以下の文に書かれたことは正しいか。「正しい」、「まちがっている」、これだけからは「判断できない」のうちから答えなさい。
1990年から20年間に、日本の面積の3倍以上の森林が世界全体で失われた。
① 正しい ② まちがっている ③ 判断できない
正解した人は、もうこのブログ記事にも、この本にも、RSTにも興味ないかもしれませんね(笑)。ただ、どちらの問題も正解率は決して高くないようです。
RSTでは、Aのような問題を【同義文判定】(2文の意味が同一であるかを正しく判定する)、Bのような問題を【係り受け解析】(文の基本構造を把握する)、Cのような問題を【推論】(小学校6年生までに学校で習う基本的知識と日常生活から得られる常識を動員して文の意味を理解する)の力を測る問題としていますが、これらに加えて【照応解決】(指示代名詞が指すものや、省略された主語や目的語を把握する)、【イメージ同定】(文章や図やグラフと比べて、内容が一致しているかどうかを認識する能力)、【具体例同定】(言葉の定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力)の6分野の力を測ります(【具体例同定】はさらに辞書由来の問題群と理数系の教科書由来の問題群に分かれます)。
本書に掲載されている体験版で、私は【同義文判定】【係り受け解析】【推論】【照応解決】は満点、【イメージ同定】【具体例同定(辞書)】は標準点でしたが、恥ずかしながら【具体例同定(理数)】の成績がよくありませんでした。あくまで理数系の学力ではなく、読解力の不足です。
本書によると、子どもから大人までこれまでのべ18万人が受検したそうです。試験時間は50分(小学生は45分)、CBT方式(PCやタブレットでの受検)です。
埼玉県の戸田市教育委員会はRSTをいち早く導入し、2017(平成29)年度からは小・中全ての児童生徒が受検し、授業改善等に繋げているそうです。また、板橋区教育委員会も本年度から導入したそうです。
詳細はコチラ → note 戸田市教育委員会のトライ&アプローチ
戸田市教育委員会「2019年度(平成31年度)教育政策室 指導の重点・主な施策」
東京新聞 読み解く力でAI超える 板橋区立小中 RST導入へ(2019年5月6日)
私は途中で「この本はRSTの受検者を集めるための宣伝本なのか?」とも感じたのですが、それはいわゆる“下衆(ゲス)の勘繰り”でした。
リーディングスキルを向上させるための授業案(小4国語/小4算数/中2数学)は具体的で参考になりますし(戸田市や板橋区で実際に行われた授業案)、教科横断的指導のヒントもあります。何よりも最後に明かされる本書の印税の使いみちを読んで、下衆の勘繰りを心の中でお詫びしました。ただ、新井氏の理想通りに、全ての日本人のリーディングスキルが劇的に向上すれば、いわゆる教育産業は全て必要ないことになるかもしれませんので、そこは複雑な思いです。
新井氏の理論やRSTにも批判はあるようですし、何事にも完璧はなく、盲信も良くないですが、RSTの限界も本書には書かれています。教員志望者の方が読めば、様々な示唆があると思います。
【問題B】の正解 ①
【問題C】の正解 ①
余談ですが、先日「東ロボくん」関連のニュースをネットで読みました。どうもNTTとNIIによる後継プロジェクト(記事では“東ロボくんプロジェクトの一環”という表現でした)があるようで、2019年のセンター本試験英語で200点中185点(偏差値64.1)を獲得したとNTTが11月18日(月)に発表したそうです。2016年のセンター模試では200点中95点(偏差値55.5)だったとのことです。相変わらずAIは記述式が苦手なようですが(でもそういう受験生も多いですよね)、AIは着々と進化しています。AIに駆逐される人間にはなりたくないなぁ・・・(-_-;)。
詳細はコチラ → 日本経済新聞 AIの英語、東大レベル センター試験9割超正解
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