東京アカデミー立川教室
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こんにちは。公務員試験対策の予備校=東京アカデミー立川校の福島です。
さて、昨日、特別区Ⅰ類の正答の公表がありました。
タイトルの「2022年特別区Ⅰ類・専門試験 民法No.11」については、
試験実施後から、ツイッターで疑義があることを述べていました。
立川校の民法のご担当の鴇田講師からのご指摘で
色々と調べてみました。
No.11は、民法に規定する代理に関する記述として、通説に照らして、妥当なのはどれか。」です。特別区の出題でよくある「通説に照らして」解答する問題です。
肢1・2・4は簡単に切れると思います。
肢2は100条、肢4は114条で切れます。
肢1は、例えば、近江・前掲250頁、佐久間毅「民法の基礎1総則(第5版)」(有斐閣)257頁など、
どの基本書・テキストにも載っていると思いますので、簡単に切れると思います。
肢5の後段は正しいです(近江幸治「民法講義Ⅰ民法総則(第7版)」(成文堂)257頁)。
前段の「復代理人は、代理人の代理人であるから」が誤りです。
例えば、我妻栄「新訂民法総則(民法講義1)」(岩波書店)には「復代理人は本人の代理人であって、代理人の代理人ではない。」としかりと記述されており(そのほかにも、我妻栄著、幾代通・川井健補訂「民法案内2民法総則」(勁草書房)226頁、松坂佐一「民法提要(総則)(第3版増訂)」(有斐閣)、川井健「民法概論1民法総則(第4版)」(有斐閣)、遠藤浩ほか編「民法(1)〔第4版〕」(有斐閣双書)179頁(玉田弘毅執筆部分)、加藤雅信「新民法体系1民法総則(第2版)」(有斐閣)308頁、河上正二「民法総則講義」(日本評論社)447頁、近江幸治「民法講義Ⅰ民法総則(第7版)」(成文堂)257頁、潮見佳男「民法総則講義」(有斐閣)350頁、山野目章夫「新しい債権法を読みとく」(商事法務)55頁、松尾弘「民法の体系~市民法の基礎~(第6版)」(慶應義塾大学出版会)233頁、山本敬三編「有斐閣ストゥディア民法1総則」(有斐閣)195頁(山城一真執筆部分)、中舎寛樹「民法総則(第2版)」(日本評論社)312頁などに同様の記述があります)、誤りです。
ということで、肢1,2,4,5,は明らかに誤りなので、解答速報では、肢3をいったん正解としました。
出題者は、肢3について、条文の構造から、
101条3項前段の「自ら知っていた事情について」を、同条項後段の「本人が過失によって知らなかった事情について」に差し替えて、
後段の「同様とする」を、前段の「代理人が知らなかったことを主張することができないものとする」に、
1つにまとめたと思われたからです。
出題当時、この問題に疑義があるという予備校は、東京アカデミー以外にはなかったと思います(あったらごめんなさい)。
さて、民法101条3項を見てみましょう。
「特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、
本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。
本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。」
肢3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときには、
本人は、本人が過失によって知らなかった事情について、
代理人が知らなかったことを主張することができない。
肢3は、101条3項に関することを聞いています。
特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、
本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができません。
これは前段で分かります。
後段の赤字の部分「本人が過失によって知らなかった事情について」は、どうなのかというと、
条文では「同様とする」となっています。
問題文では、「代理人が知らなかったことを主張することができない」としています。
101条3項後段の「同様とする」の解釈が、
本当に、肢3の「代理人が知らなかったことを主張することができない」になるのか、これが通説なのか?が問題になります。
なぜなら、
「特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、
本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったこと、
本人が過失によって知らなかった事情について
代理人が無過失であることを、主張することはできない(101条3項)。」
と説明する基本書があるからです。
佐久間毅ほか「リーガルクエスト民法Ⅰ第2版補訂版」(有斐閣)196頁(山下純司教授執筆部分)です。
原田昌和ほか「日評ベーシックシリーズ 民法総則(補訂版)」114頁(𠮷永一行教授執筆部分)も、
「101条3項によれば、
『特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたとき』について、
本人が、自らがある事情を知っていたのであれば(あるいはある事情を知らないことにつき過失があったのであれば)、
代理人がその事情を知らなかった(あるいはある事情を知らないことにつき過失がなかった)
ことを主張できなくなる。」としています。
カッコ内が101条3項後段の説明です。
実は、この101条3項の「同様とする」の意味について債権法改正の際に議論されています。
「民法(債権関係)部会資料 29 民法(債権関係)の改正に関する論点の検討(2) 55頁以下」です。
そこでは2つの考え方があるとして、2つの案が提示されています。
【甲案】これが肢3です。
本人が善意かつ有過失である場合には、
本人は代理人の善意を主張することができない旨の規定であることを条文上明確にするものとする。
【乙案】
本人が善意かつ有過失である場合には、本人は代理人の善意を主張することはできるが、
代理人の善意かつ無過失を主張することはできない
旨の規定であることを条文上明確にするものとする。」
法制審議会の民法(債権関係)部会の第33回会議 議事録11頁には、
ここでの議論があります。
高須順一幹事(東京弁護士会)は「続けて、(2)はイの部分がございますので、イの部分につきましては甲案、乙案あるわけですが、乙案のほうが本来であろうというのが弁護士会の基本的な意見ということでございます。私もそのように考えております。こちらは余り議論にならないのかもしれませんが、そういうふうに弁護士会としては理解しております。」と発言しています(議事録11頁)。
この後に、
山本敬三教授は、「(2)の2項に対応する部分は、少し疑問があります。特に、イの部分ですが、部会資料を見ますと、101条の2項後段について、甲案と乙案という考え方があり得るというのですけれども、甲案のように、「本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする」というのを、本人は代理人の善意を主張することができない旨の規定と理解するという考え方は、実際にこれまで主張されたことがあったのか、定かではありません。少なくとも、善意のみが要件とされているときに、たまたま代理行為が行われれば、本人は善意でも、過失があれば、代理人の善意が主張できない。つまり、善意という要件を何か本人の善意無過失という要件に読み替えるようなことになりはしないかという危惧があります。その意味では、高須幹事がおっしゃいましたように、乙案のように理解するのが自然であって、ここでは乙案を採用するという方向で考えてよいのではないかと思います。」と発言しています(法制審議会の民法(債権関係)部会の第33回会議 議事録11頁)。
大学生がよく使うであろう、民法のテキスト「リーガルクエスト」の民法総則には、
この乙案の解釈(山本敬三教授もこの考えです)を記載しています。
このように101条3項の「同様とする」には2つの考え方があるのですが、
「通説に照らして」と言われても、真面目に学んでいる受験生には、酷な気がしました。
ということで、
本人が有過失の際には代理人の不知を主張することができないとする肢3(甲案)のほかに、
山下説(乙案:本人が有過失の際には代理人の無過失を主張することができない)もあるので、
正答なしにすることも検討していただく必要があるのではないかな、とそのときは考え、ツイートしました。
そして、
特別区からは、
<正答なしとする理由>
正答の選択肢として用意した“3”について、通説に照らして妥当と判断することが困難なため。
との発表があり、当該問題を選択した全ての受験者の解答を正答として取り扱うこととなりました。
いま、大学で民法の講義を聴いている方は、是非、学者の先生方に101条3項の「同様とする」は、
代理人の不知を主張できないという意味なのか、
代理人の善意無過失を主張できないという意味なのか、聞いてみてくださいネ。
101条3項の議論が発展する良い機会になればと思います。
昨日、下記一連のツイートをしました。
— 東京アカデミー関東エリア公務員試験対策講座 (@TouakaKoumuinE) May 3, 2022
特別区・専門民法No.11です。肢3を正解にしています。他の肢が明らかに誤りだからです。しかし、肢3を正答とすることに疑問が残っています。https://t.co/SofkTFTnTF
【2022】東京特別区 専門民法No.11
— 東京アカデミー関東エリア公務員試験対策講座 (@TouakaKoumuinE) May 2, 2022
この問題、ちょっと疑義がありますが、それは追々書いていきますネ。
肢1・2・4は簡単に切れると思います。
肢5は、後段は正しいんですよネ(近江先生の民法講義総則257頁)。前段の「復代理人は、代理人の代理人であるから」が誤りです。
(続く)
ということで、
東京アカデミー関東エリア公務員試験対策講座のツイッターを今後もどうぞ宜しくお願いいたします!