東京アカデミー東京校
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皆さんこんにちは。東京アカデミー東京校 教員採用試験対策講座チューターの後藤です。
冬の寒さもひと段落し、最近では春の陽気も顔をのぞかせるようになってきましたね。そして教員採用試験まで、半年を切りましたね。
さて、本日は勉強方法などについてではなく、教員の働き方改革の根底にある問題を掘り起こしていきたいと思います。
皆さんは現在の日本の教員の勤務時間が、OECD加盟国のうち最長であることをご存知でしょうか。
昨年発表されたTALIS2018においては、勤務時間が週平均56時間(中学校)で、参加国の平均である38時間を圧倒して超えています。
とりわけ、中学校の課外活動(スポーツ・文化活動)の指導時間が特に長く、日本:海外平均=7.5H:0.6Hとその差は歴然です。
一方、日本の小中学校教員 が職能開発活動に使った時間は、参加国中で最短となってしまっています。
なお、これらの現状を解決するために、文科省では2019年1月の中教審「学校の働き方改革答申」を推進するとして、勤務時間の上限ガイドライン・業務の適正化(教員のやるべき仕事とそうではない仕事などの分類)・部活動の適正化・勤務時間の改善・サポートスタッフなどの加配措置、チーム学校の推進などが掲げられています。
さて、なぜこのような状況が生じているのでしょうか。
そのもとには、我々の給料などを決める「給特法」と、市民が教職(学校)に求めるものの肥大化・全方向化による影響があると言えます。
皆さんは「給特法」という法律を聞いたことがありますか?
本名は「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」と言い、略して給特法というのです。
この法律は、1965年に制定されたもので、内容はズバリ<教員には残業代や休日出勤手当を支給しない代わりに基本給の4%に当たる教職調整額を一律支給する>というものです。
この法律が制定された当時は、現在よりも教員の労働時間が短く、4%という額が適当とされて(実際には相当押し込められてしまったそうですが…)決定したのですが、現在この4%ははたして適当なのでしょうか?
今、教員に残業代や休日手当てを支給するとしたらどの程度の金額に膨れ上がるのでしょうか。
実は、試算されており、仮に全国の教員に残業代等を認めてしまうと国は約1兆円の追加予算が必要になるとの事です。
更に、文科省は財務省から「子供の数が減っているのだから教職員の数も減らす、つまり文教関係費を削減しますよ」との話を受けているなんて話もあります。
また、学校に求める事の全方位化についてなのですが、昨今常に「○○教育」と言われてしまう時代となっています。
社会の要請として、そのような教育が現場で求められている訳ですが、それにしても求めるものがとても多くて対処しきれないというのもまた教員の本音ではないかと思います。
主権者教育では、学校で全てできると考えるのではなく、「あらゆる場においてなされるべきである」とオランダの教育哲学者ガート・ビースタも論じています。
学校だけが子供の教育を確保するのではなく、学校と共に家庭、参加しているコミュニティにおいて教育はなされるものであってほしいと思います。
さて、以上大きく二つの点について述べて参りましたが、より根本にある問題点は、「教員=聖職者」との認識であると言えます。
この点について、哲学者:苫野一徳氏は2019年5月15日の教育新聞に掲載されていた論で、
「教師の仕事は、市民社会の「普遍的な利益」(ヘーゲル)を追求する他の一般公務員に比べて、いささかも特殊なわけではなく、むしろ市民社会の土台中の土台を築く仕事と言わねばならないのだ。」
と述べています。
つまり、通常の公務員とは特殊であるとして別個に考えられてきた教員としての職務も専ら特殊ではなく、普遍的なものであるためその認識は誤りであるということです(専門職ではありますが)。
最後に、公立学校の教員に1年単位の変形労働時間制を導入可能とする改正給特法が12月4日、参院本会議で賛成多数で可決、成立しました。
これは教職員の変形労働制を認め、長期休暇を取りやすくする法律なのですが、変形労働制は給与の増額を認めるものではありませんし、そもそも職務が時間通りに終われば休暇を取りやすいのか種々の事象が発生する学校において実行可能であるのかは定かではありません。
この先、我々もまたこのように私たちを規定する法律や問題に対してもっともっと正対する必要があるのかもしれません。
また別稿で現在採られている働き方改革の具体的なお話が出来ればいいなと思います。
参考文献
油布 佐和子(2015)教育改革と教師―教師の労働環境に焦点を当てて.放送大学教材.現代日本の教師―仕事と役割
教育新聞 2019年12月4日掲載 改正給特法が成立 変形労働時間制の導入が可能に(2020年1月15日閲覧)
教育新聞 2019年5月15日掲載 働き方改革を巡る視座『教育学者としての問い』(6)教職「特殊性」論批判(2020年1月15日閲覧)
文部科学省 我が国の教員の現状と課題 -TALIS2018結果より-(←クリックでリンク! 引用元:文部科学省HP)